楽しく真剣に生きるために起業-『日本語の森』を運営する早大生が目指すもの-

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Youtube上で日本語の授業を提供する『日本語の森』は、2013年の9月に配信開始以降、2年間でトータル900万回再生、現在では198か国で利用されている大人気サービスだ。動画では、早稲田大学の学生が主体となって講師を務め、視聴者が問題を解きながら日本語の理解を深められるようになっている。その上、より理解しやすいように寸劇を挟んだり、講師がメイド服を着て出演するなど、随所で日本らしさを感じることができるため、現在では日本語を学びたいという人だけでなく、日本という国に興味を持つ人も盛んに視聴し、コメントをするまでになっているという。
動画だけではない。今では活動拠点の一つであるベトナムに300人が在籍する日本語学校を構え、現地のテレビ局が取材に来るまでに成長した。
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(授業動画の一コマ)

これを立ち上げたのは、現在早稲田大学5年生、日韓ハーフの申忠國(シン チュングク)。彼には当初から日本語教育への想いがあったわけではない。数々の人との出会いや経験を経て辿り着いた彼の答えが、自身が楽しく真剣に生きられて、みんなのためになるビジネス『日本語の森』であったのだ。

申忠國(シン チュングク)
早稲田大学政治経済学部5年生。韓国人の父と日本人の母のもと、高校卒業まで韓国で過ごす。日本留学試験を受け、日本留学試験とTOEFLの結果、早大に合格し日本へ留学。2013年、大学3年生の時に日本語能力試験向けの動画を初めて配信。以来『日本語の森』代表として同サイトを中核としたビジネスを推進中。

王道ルートじゃなくていい。楽しく生きるためにビジネスを

私は高校卒業まで韓国で育ったのですが、韓国はみなさんもご存じの通り苛烈な競争社会。競争を勝ち抜いてよい大学に入ることがよい職への条件ではありますが、大学に合格すれば、次はもっと激しい就職競争が待っています。そうした韓国の文化がどこか肌に合わなかった私は、一念発起して日本に留学を決め、早稲田大学に入学しました。
入学後は特に何かやりたいことがあるというわけではなかったので、最初はいろいろな活動に顔を出していたところ、インターネット教育を無料で提供するプロジェクトをやっている先輩に出会いました。そのプロジェクトは、教育を受けられないバングラデシュの農村部の子どもたちを名門ダッカ大学(同国の東大のような存在)に合格させるなどの実績を上げており、バングラデシュの他7つの途上国でサービスを展開するまで拡大。国連と一緒にプロジェクトを推進するようになるようなバイタリティにあふれたプロジェクトで、私も何か自分でやってみたいなと強くインスピレーションを受けました。

そして、そんな私の背中を押してくれたのが、当時住んでいたシェアハウスの住人でした。住人の多くは、商社等いわゆる一流企業を辞めて自由に生きている人たちで、王道街道をいかに上まで進むかが問われる韓国で育った私にはカルチャーショックだったんです。「就職して会社で働くこと以外の生き方がある」そう肌で知り、ビジネスを始めることを決意しました。当時所属していたソーシャルビジネスのNPO法人は、もちろんそれはそれで良い面もあるのですが、どこか真剣みが欠けているような気がしていました。ビジネスはきちんと成果を出して、対価を貰う。だからこそみな真面目に取り組むし、それが楽しいと思うんですよ。社会貢献・ボランティアではなく、楽しく真剣に生きるためにビジネスをしよう。挑戦したい。この思いから起業を決めました。

需要×自分の強み=サービス

ビジネスをするといっても、どんなことをしよう?私が何か価値を出せるとしたら…?私は日本人と韓国人のハーフですが、高校まで韓国で育ったのでほとんど日本語ができませんでした。それでも日本の大学を志望することに決めたため、日本留学試験でよい成績を取る必要があり、読み書きの初歩からがむしゃらに勉強して日本語を習得しました。私が胸を張ってこれならと言えるのは日本留学試験対策だ。だけどそれだと日本への留学生の数からして市場が小さい。だからもう少し視野を広げて“日本語教育”という枠だとどうだろうか……といったことを考えるようになりました。実は語学学校等に通って日本語を勉強している人数はここ30年くらいで約30倍に増加していて、今や世界中に400万人くらいいます。独学で勉強している人の数を入れるとこの数字を大きく上回ることが予想できます。そして調べていくうちに、私は日本語能力試験に注目するようになりました。日本語能力試験は、日本語学習者なら誰もがとりたいと思っている価値ある資格で、これがないと基本的に日本でアルバイトや就職ができません。例えば飲食店チェーンで働くとなると3級辺りが求められ、4級だと荷物の仕分け作業や清掃、それ以下だと深夜で工場労働をする等の選択肢しか残されていません。仕事を求めて来日したベトナム人の70%は資格が無いのでこういった工場労働に従事しているのが現状です。仕事の選択肢を広げるためには、日本語能力試験が絶対に必要――もし無料で、自分の好きな時に手軽に学習できるサービスがあれば絶対にヒットすると考え、サービスを開始しました。
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(急激に伸びているのは日本語能力試験前だそう。グラフから利用されていることが推して知ることができる)

本当に必要なものは自然に広がる

最初はお堅いテーマということもあり、再生回数も伸び悩んでいましたが、始めて一ヶ月で当時日本大学4年生のベトナム人、ズンさんが私達の動画を観て「一緒にやりたい」と申し出てきてくれたのです。ズンさんがベトナム語で日本語の授業を始めると、一気にベトナムユーザーを獲得することができました。ベトナムで知名度を得たので、試しに現地でイベントを開いてみると、アイドルのファンミーティング並の大盛況。主催した私達の方が驚いたくらいです。ベトナムに可能性を感じた私達は、今年(2015年)の3月にハノイに日本語学校を創設しました。現在では5階建のビルで300人の生徒が学習し、日本語を習得した生徒を日本の学校や企業に紹介するというビジネスも行っています。2014年の6月には韓国人のユハさんが仲間に加わり、韓国語での日本語講座担当しています。彼女のおかげで、韓国の出版社と提携してカリキュラムを展開することも可能となりました。学習本のバーコードを読み込むと動画に繋がって、『日本語の森』を観ながら勉強することができるのです。その他、日本にいる外国人向けにも日本語能力試験や日本留学対策試験の塾を開講していて、より多くの外国人の人が、就きたい仕事に就けるよう支援していきたいと考えています。
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(左=ベトナムの日本語学校での授業 / 右=日本での日本留学対策試験の塾)
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(ベトナムで開催したイベント 日本語の森活動報告より

価値があるからこそ必要とされる。必要とされるから続けられる。

日本語学習業界は、上手な授業を行える先生が少なく、その割に学費が高すぎるのが現状です。例えば平均月収が3万円ほどであるベトナム人では、借金をしたり農地を売ったりして、やっとの思いで日本へ来ますが、来日してからも生活費や仕送りのために低条件で週40時間働きながら日本語学校に通わなくてはなりません。ですが質のよい授業を提供している学校はそんなに多くない。これは非常に残念なことです。精神的にも金銭的にもゆとりがないこのような状況では、日本語も日本の文化も到底身に付きません。だからこそ、私達は「圧倒的クオリティ」を追っていきたいと思っています。どこにも負けない強い商品を作れば、それが利用者の利益にもなり、私達の利益にも繋がる。NPOでもボランティアでもなく、ビジネスだからこそ持続的に価値を提供していけるのだと私は信じています。『日本語の森』では動画の視聴以外にも、日本語について質問できる掲示板や、講師とSkypeやLineで気軽に話せる機会を提供しています。最近では都内で交流会を開いたりもしているので、日本語を学びたい人はぜひ一度気軽にサイトを訪れてみてください。
ようこそ、『日本語の森』へ!

アウトエリート編集部

アウトエリート編集部

若き異端児達の“自”論展開メディア「アウトエリート」編集部。ちょっとした瞬間や毎日の生活の中で役に立つ…かもしれない知的な情報を上手いこと編集して流していきます。

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